
携帯電話やパソコンのネットを通し、電子メールだけのバーチャル世界で友情や愛情を育んでいる相手−「メル友」。十
代、二十代の若い世代を中心に、こういった人間関係が増えています。「メールで付き合っている人はリアル世界で出会
う人と比べてすぐに親しくなれる」という意見も多く、実際、メール上での人間関係は、自分自身の情報を相手に伝える
「自己開示」が、早く行われると言われています。これは、相手の顔や声、口調などの情報がなく文章のみを使うため、コ
ミュニケーションを取るうえでの心理的ストレスガ低いためと言えます。実際に人と会うとすれば、話し方はもちろん、しぐさや
表情などもあれこれ気を遣う必要が出てきますが、メールなら気遣いするのは文章だけ。確かにこれは楽です。
が、実は、メールの世界で行われている「自己開示」は、厳密には自己開示ではなく、ほとんどが、「自己呈示」なの
です。自己呈示とは自分に都合のいい情報だけを選んで相手に伝えることで、自分をさらけ出す自己開示とは少々意
味が違ってきます。自己開示が「本音」だとすれば、自己呈示は「建前」の世界なのです。それでは、この自己呈示によっ
て相手と会話すると、どのようなことが起きるのでしょうか?
例えば今、あなたに悩みがあるとします。そこでメル友にメールを送ります。当然、すべてをさらけ出す必要はありません。
実際の人間関係や自分の落ち度などを、あえて書かなくても問題はないのです。こうして書かれたメールに対する返事に
は、心を癒してくれるような優しい言葉が書かれているでしょう。そう、すべてをさらけ出さないメールの返事は、「こんなふう
にに癒されたい」と望む内容になるようにコントロールされているのです。「メル友は自分のことをよく分かってくれてる。自分
の悩みにもいつも的確な返事をくれるし」と、思うのも当たり前。一見、相手からのメールで悩みが解消したという形に見え
るものの、自分の思う通りに臨む言葉を相手からもらっているだけの自己完結に過ぎないのです。
実際の友人や恋人に悩みを話すとなると、相手は「自己開示」されたあなたという人間をよく知っていますから、欠点や
落ち度を指摘してくるかもしれません。「そんなことで悩むなんて、あなたらしくない。もっと前向きに元気を出して」などと、
軽くいなされてしまう場合もあるでしょう。また、現実の世界では長い年月をかけ、悩みを話せる人間関係を築く必要も出
てきます。つまり、メールで「自己呈示」しながら友人や恋人を作ったり、心を癒してもらうほうが、心理的にも実質的にも
ローコストで済む。これが、バーチャルな人間関係がもてはやされる真の理由なのかもしれません。
『面白いほどよくわかる心理学』 渋谷 昌三 2004年
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